わたしは小さな子供の頃から唇からあごにかけてに大きな傷がある。それについて毎日鏡を見てても何にも思わないし、聞かれても何とも思わずに理由を答えることができる。でもそれについてひとから聞かれたことはこの十数年なかったような気がする。
いつだかMilesがまじめな顔して話したいことがあるからここに座って、とわたしを目の前に座らせようとした。わたしはなんだか気持ち悪くて「やだよー、ここでいいじゃん」ってキッチンに立ったままでいたらいいから座れと言う。そんで顔のその傷はどうしたんだ?と聞かれた。答えたあとしばらく黙って、その答えはあんまりよくないから今度からスカイダイビングで落ちたことにしろと言う。わたしは笑ってオーケーと答えた。シアトルでもわりとすぐにCaronから同じことを聞かれた。スカイダイビングのことが頭に浮かんだけど、ほんとうのことを答えたら今ならもっときれいに直るわね、って言った。
ただそれだけの話だけど、日本人はあんまりそういうことは聞かないものなのかも。わたしのあごに黙って触れたひとはそれを聞きたいと思っていたのかもしれない。でもほんと、聞かれないとそれがあることも忘れてるくらい、この傷は目とか口がついてるのと同じくらい普通にわたしの顔の一部なんだ。